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『着信アリ』

クリスティー・ISHI
監督:三池崇史 主演:柴咲コウ、堤真一、吹石一恵、石橋蓮司他
三池崇史監督初の本格ホラー映画ということで期待したのですが、今回は「三池らしさ」は抑えてられて手堅く撮られていました。恐怖演出もこれといって目新しいところはなく、三池ファンとしては物足りなかったのですが、彼の職人監督としての側面を観ることも悪くはありません。ストーリについても「リング」などの亜流なのでしょうが、企画・原作の秋元康の「器用さ」や「計算高さ」は感じ取れます。
楽しめたのは、廃墟の病院内での恐怖シーンやラストの大どんでん返しです。また、説明的な部分を極力省いて解釈を観客に委ねる手法も今風(?)で面白かったです。
日曜日の午後に観に行ったのですが、席の8割程は埋まり、客の9割くらいは10代の子でした。恐怖シーンの度に場内に少年少女のどよめきが起こり、お化け屋敷さながらの雰囲気でした。はじめは「うるさい客だな」と思っていたのですが、観ているうちに、こういう賑やかな雰囲気で映画を観るのも悪くないなと思いました。終わったあと、少年たちが「意味のわかんねえラストだったな。」と話していましたが、この作品のラストをどう解釈するかは難しいところだと思います。
彼らの姿を見てたら、中学時代仲間と連れ立って映画を見に行っていたことをふと思い出しました。あの頃は映画を見に行くといったら中洲まで行くしかなく(私は太宰府に住んでいた)、西鉄電車に乗って見に行っていたものです。見終わった後、中洲の橋を歩いていたらヤンキー兄ちゃんにカツアゲされ有り金全部取られて途方にくれた、なんてこともありました。あの頃は映画見に行くのも命懸けでした。

『ミスティック・リバー』

クリスティー・ISHI
監督:クリント・イーストウッド 主演:ショーン・ペン、ティム・ロビンス、ケヴィン・ベーコン他
重い映画でした。観終わった後、「う〜ん」と考え込んでしまいました。
子供の頃に背負ってしまったトラウマが生み出す悲劇について描いた作品です。少年時代に変質者から性的な虐待を受けるという体験をしてしまったがために、そのトラウマに苦しめられるデイブ(ティム・ロビンス)。明るい青春時代を送れず、心に誰にも言えない闇を抱え、妻子を愛しながらも妻との間に越えられない溝を感じ、苦しむ彼の姿はとても痛々しいです。そんな彼の苦しみが大人になってふとしたきっかけで爆発することになってしまいます。
クリント・イーストウッドはこの作品の企画を映画会社に持ち込んだ時、次々と断られたということです。虐待という重いテーマを扱い、ハッピーエンドから程遠いこの映画の受け手がなかなか見つからなかったのはごく当然なことなのかもしれません。
この作品を観た人のインターネットの書き込みを見てみますと、後味が悪い作品だと否定的な意見が結構見受けられます。しかし、このテーマで後味の良い(何らかの希望を残すような終わり方)描き方をしてみても嘘っぽい映画になるのかもしれません。
イーストウッドはこう言っています。「今のハリウッドは若者向けのエンターテインメントばかり。だから、こういう映画はかえって新鮮かもしれない。ただしヒットするかどうかは僕には分からない。多くのひどい映画がヒットする時代だからね」。ハリウッドという巨大なシステムを批判する彼の姿勢は、73歳という年齢感じさせない若々しいパッションがあります。「カッコエー親爺だな!」と思うのです。
デイブが性的暴力を受けたのは偶然に過ぎません。もしかしたら幼なじみのジミー(ショーン・ペン)やショーン(ケヴィン・ベーコン)がその被害にあっていたのかもしれません。人生にはどうしても運と不運がついて回ります。それとうまく折り合いをつけて生きていかなければいけません。でも折り合いをつけれないほどの、不幸が舞い降りてきたらどうでしょうか?私は、デイブの姿を見てそう感じずにはいられませんでした。

『西鶴一代女』

クリスティー・ISHI
監督:溝口健二 主演:田中絹代、三船敏郎他黒澤、小津と並び日本が世界に誇る溝口健二監督の傑作です。
溝口監督と言えば、長廻し、ワンシーン・ワン・カットの手法です。本作品でも独特の演出が冴えわたっています。
主演は田中絹代。運命の波に翻弄され、女中、大名の側室、遊郭の女、尼などに身を変え数奇な人生を送る女の物語です。
見所はいろいろとありますが、俄然盛り上がってくるのは田中が乞食に身を落としてからの展開です。生き別れになった息子を遠くから見てたまらず嗚咽するシークエンス、娼婦になり、やっとつかまえた客から侮辱的な仕打ちを受けるシークエンス!溝口の演出と田中の演技力は神技とも思えるほどです。もともと溝口独特の長廻しはどのような経緯から生まれたのでしょうか?彼は語っています。「ひとつの構図の動きの中で、人間の心理が盛り上がってくる。そいつを、カットして、ポツンと切るのが惜しくなるんだ。そのまま押せるだけ押していきたい。それが、ああいう手法になったんで、特に意識したり、奇をてらったりしたわけじゃない」。
俳優をしごき、現場のテンションをあげ、その雰囲気がトイレに立つことによって壊れるのを防ぐために尿瓶を持参して撮影していたという監督です。その気迫はやはり映像にあらわれ、観る者を圧倒します。昭和31年白血病で亡くなられましたが、50代後半での早すぎる死でした。

『クジラの島の少女』

レディーバード・あらら
10月最後の水曜日「クジラの島の少女」
マオリ族の神秘的な伝説の地にふさわしい自然豊かな小さな村。美しく広がる海、おしよせる波の音…。でもいまだ男性社会にある、マオリ族の因習にこだわる頑固な祖父。それでも祖父を愛し、故郷を離れられない少女パイケア。救われたのは祖母の存在、“台所では私がボスよ”と言い放つ姿に大きくうなづいてしまった。女性監督ならではでしょうか。またひとつ世界の広さを知りました。
“海岸にうちあげられたクジラは本物かな?”“クジラの種類は何?”“パンフ買わなきゃだったかな”“最後の踊りは迫力あったよね、現地の人の本格的なやつだね”等々。
ちなみにその日の参加は4人。ホークス優勝の2日後とあって、後半は「クジラの島の少女」で流した涙もとんで、日本シリーズの話題であつくなりました。

『永遠のマリア・カラス』

春声@
『永遠のマリア・カラス』2002年 イタリア・フランス・イギリス・ルーマニアスペイン合作
フランコ・ゼフィレッリ監督 ファニー・アルダン ジェレミー・アイアンズ主演 108mins
配役をみるかぎり、少々、退廃の色濃い映画が出来ているのではと予想していたのに、流石はF・ゼフィレッリ作品、そうはしていません。シナリオは誰?と問うていた人がありましたが、実を言うとこの問い自体にびっくりの私、監督は誰?でたいていの映画は通過させてしまう傾向があるものですから。念のためシナリオも書き出しますと−−Martin Sherman & F.Zeffirelli.恥ずかしながら、Martin Shermanという人を知りません。
ファニー・アルダンは最近では、『8人の女たち』という映画がありましたが、なんといっても『隣の女』の女優です、あの。フランソワ・トリフォーの『隣の女』。男女の愛情描写が殆ど皆無なのに驚きです。これが中心になる映画だと思い込んでいたのですけど、見事に外れていました。そこがかえっていいのでしょうか、福岡ではこの映画封切り館での公開が終わって直後に中心部の大きな映画館ですぐまた続映しています。
劇中劇として挿入される歌劇”カルメン”でドン・ホセとカルメンの恋模様のかけひきを写すところと、これまた挿入のオペラ”トスカ”かな?の中の”男を刺殺するトスカの場面”くらい、後は仕事と精神性のみを強調したかのような男女の物語でした。M・カラスを演じるファニー・アルダンがすごく気持ちのよい美しさを表現してくれていて感激ものです。この人の映画はいいですね。
ラストで仕事上の相手ジェレミー・アイアンズに別れをつげ、自分の信念にもとづいて、”芸術家として残したくない仕事”は断固拒否するプリマ。芸術家魂なのか。座っていた公園のベンチから立ち上がり一人歩み去るマリア・カラス(ファニー・アルダン)。そこで流れる音楽が泣かせます。ベルリーニという人の作品に歌劇”ノルマ”というのがあってそれで歌われるアリア”清らかな女神よ−−”というんだそうです。もう一度でも聴きたいです、観たいです、ここは。

『アバウト・シュミット』

伊之助
「アバウト・シュミット」見ました。
落ち着いた良い映画でした。若い人には早い映画かもしれない。
私が20歳の時、黒澤明監督の「生きる」を見ました。
彼は50歳くらいの老人だったが、癌であと3ヶ月しか生きれないと思って焦る。自分は今まで何をしてきたのだろう。「なにもしていない」「何かしたい、何かしたい、でも、わからない」「生きて死にたい」衝撃的な映画で、私を黒澤の虜にしました。
この映画は仕事を60歳過ぎまで十分してきた男の話である。
仕事をリタイヤしたあと、どう生きるか。妻が急死。娘は自分の意に沿わない男と結婚。ひとり。やることがない。毎日が日曜日。会話の相手もテレビだけ。ひとり。寂しい。ひとり。解答のないままこの映画は終わっている。
会社をリタイヤ。自分はこの歳まで何をしてきたか。たいしたことをしていない。世の中を変えたわけでも、人に影響与えたわけでもない。どう生きればいいのだろう。
朝日新聞に週一回「仕上げの時、助走の時」ってエッセイが載ります。60歳以上の人の話。だいたいが不幸な家族、不幸な人生を送っている人の話。「どう人生を仕上げていくか」って話。「どう最終に向かって助走していくか」って話。
シュミットみたいにならないように、助走を開始しなければならないのだろう。
シュミットも趣味をちょっと持ってたらよかったかもしれない。それだけでもいけないだろうが−−
しかし、アメリカの結婚式も披露宴したりキャンドル−日本のろうそく会社がキャンドルサービスを考えたと理解していたが−したり全く日本と同じなのに驚いた。
黒澤の「生きる」のリメイクは、ジャック・ニコルソンがよかったな−−−

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