【 15へ 】

「華氏911《

シエスタのあじ塩
[監督・脚本]マイケル・ムーア [メインキャスト]ジョージ・ブッシュ(第43代アメリカ合衆国大統領)
製作年:2004年/製作国:アメリカ 
提供:ギャガ・コミュニケーションズ、博報堂DYメディアパートナーズ、日本ヘラルド映画
前作の『ボウリング・フォー・コロンバイン』を見たときに、マイケル・ムーアはどちらかというと、映像よりも、言葉の世界の人、言葉で対象に切り込んでいく人だという印象をもちました。映画はそれなりにおもしろかったのですが。そうして、この『華氏911』を見たのですが・・・認識をあらためました。マイケル・ムーアは言葉だけの人ではないんですねー。そういう意味では、『ボウリング・・・』とは、作品の肌合いが、かなり違う気がします。
彼の武器は、相手に切り込んでいく“言葉”と、ゲリラ的な“アポなし・突撃”に尽きるのかと思っていたら、もっと大々的に映像素材を集めるシステムも持っているのです。例えば、同時多発テロが発生したときに、ブッシュ大統領が訪問中だった小学校の映像が使われています。テロの第一報を聞きながら何もできない“アホで間抜けな”顔をした大統領の映像は、これだけでも超~衝撃映像です。
イラク戦争の映像も、ニュース映像で配信されたものではなく、独自のものです。パンフレットを見ると、ムーアの元でたくさんのフリーカメラマンがイラクに入って独自の映像を撮ってきたとありました。ただの“電波少年”監督じゃなかったんだ・・・
それから、ラジオで『華氏911』の配給担当者が、この映画について「新聞などがやたら“政治的な映画”ということばかり強調していた。でも、これはエンターテイメントの娯楽映画なのです《と言うのを聞いたのですが、本当にそうでした。例えば、映画ファンの心だって、しっかりくすぐってくれます。あの“血湧き肉躍る”ようなテーマ曲♪と共に『荒野の七人』の映像が出ます。「おおっ!ユル・ブリナーやチャールズ・ブロンソン登場か?!《と思ったら、ジョージ・ブッシュやトニー・ブレアの顔に差し替えられていて、おもわず声をあげて笑ってしまいました。ちなみに彼らが戦う敵はイラクです(笑)。よく笑ったけれど、心から笑ったのはそこくらい。後は笑いながら寒くなりました。
映像のない、グレーの画面で響いた9.11のものすごい爆発音。映画館の暗闇で、これはめちゃめちゃこわかったです。これまで見たどんな映像より恐ろしかった。どんなに衝撃的な映像も、それを現実に経験していない第三者にとってはバーチャルな受け取り方しかできない。それが映像の限界(?)ではないかしら。そんなことも感じました。
12月24日、クリスマスイブの深夜、米軍がイラク人の一般家庭を家宅捜索する(これもこわい映像でした)、その往復の道中に、ビング・クロスビーの「サンタが街にやってくる《がかぶさります。世界中で一番売れたクリスマスアルバム(私も持ってます)の曲がこんなところで流れている・・・なんという皮肉。 映画『我が道を行く』のなかで、ビング・クロスビー演じるオマリー神父が「Going MyWay《を歌って出征する若者を祝福するシーンがあったのを思い出しました。『華氏911』でも出征した若者のエピソードがたくさん出てきます。でも、『我が道を行く』の第2次世界大戦の頃と、今回のイラク戦争と、強烈に違うのは、アメリカが遂行する戦争に正義があるのか、そこにすら疑いが生まれてしまったこと。
あまりにいろいろ見せられて、まだ頭の中が渦を巻いている状態ですが、少なくともこの映画を見る前と後で確実に変わったのは、アメリカ大統領選挙についてのアンテナの感度がすごく敏感になりました。

「トロイ《

唐重郎
監督:ウォルフガング・ペーターゼン / 出演:ブラッド・ピット、オーランド・ブルーム他
「トロイ《を見に行きました。私はこのトロイの話を歴史的には全然知りませんでした。木馬の話は知っていましたが。この映画の元になっているのは、ギリシャ神話のエピソードの一つ、トロイ(トロイア)戦争の話で、西欧では日本の「桃太郎《のごとくメジャーな話です。
特にこの戦争を詠ったホメロス(ホーマー)の叙事詩「イリアス(イーリアス/イリアッド)《は西洋文学の原点といわれ、日本の「源氏物語《や「平家物語《のように、多少学歴があれば必ず読んでいるといってよいほどの有吊な作品です。
主演のブラピの肉体美の話がよく出てくるのですが、私にとってはどうでもよいことであり、また内容自体は特段感動するほどのものでもなかったですが、よくこんな作品が出来たな、と映画の作りには感動しました。当時を再現した砦や船や大人数の戦闘シーンは本当によく作られてあります。とてもハリウッドにはかなわない、と、山本五十六や小津監督じゃないけれど、こんな映画を作る金と技術のある国にはかなわないなと思いました。
しかし、なんで今「トロイ《なのでしょうか?アテネオリンピックだからかな?この映画結構長くて、途中からトイレに行きたくなり、終わるまで我慢しようと思ったのですが、我慢できずに途中盛り上がりのない所で思い切って行きました。で、トイレがおわり通路を歩きながらスクリーンを見たら、ががんー!木馬が巨大に映っていて、どういういきさつで木馬が突然出てきたのか、見逃してしまいました。もっと早くトイレに行くべきで、走って帰って来るべきでした。ほんと判断が「トロイ《し、足も「とろい《。
この作品、映像は一見の価値はあります、と吐露します。残虐な殺し合いが無かっただけでも(殺し合いはありますが今風の醜悪で残虐なものではないと思います)後味はいい映画です。

「ふくろう《

シエスタのあじ塩
監督:新藤兼人 出演:大竹しのぶ、伊藤歩 柄本明他
映画を見ながら、新藤監督は、そもそもこの脚本を舞台のために書いたのではないかな、と思いました。で、後からパンフレットを読むと「主演の大竹しのぶさんのスケジュールが23日間しか空いていなかった。単純計算でいって、9人の男が死ぬのに一人あたり2日半しかかけられない。撮りきるにはいろんなところに行くわけには行かないし。それからお金もないし・・・《とまあ、いろんな条件が重なって、成り行きで、主人公の母と娘が住む家の室内だけの1セットの撮影になったらしいです。
でも、これは舞台で見てみたい脚本です。そんな、始めから終わりまで通して、ほとんど"1シーン1カット"のようなつくりの映画だから、下手クソな大根役者を、細切れのカット割りやらフォーカス送りやらで、上手いこと料理して救済してくれるわけでもない。
というわけで、役者も素材で勝負、"刺身の盛り合わせ"のようです。柄本明、原田大二郎、六平直政、魁三太郎、田口トモロヲ、池内万作・・・。クセのある面々が、その臭いをぷんぷんさせて、出てくる、出てくる。最初にやってきて殺される男、木場勝己がとっても"トリ顔"で、すべてを見届けるふくろうにそっくり。監督、このキャスティングは、そのそっくり効果も狙ったのではないかな~。
大竹しのぶは、ほんの短いカットの中でさえも、表情がぱらぱらぱらっとまるで万華鏡のように変わっていくのがすごい。目が離せなくなります。女は強く、しぶとくあらねばならぬのだと、心から思ったことでありました。

「ふくろう《

Mt.Fuj
この映画を観て、宮沢賢治の「注文の多い料理店《を思い出しました(映画の中で、雨ニモマケズ の引用がありますが、どっちかというと罠的要素が強い「注文の多い料理店《方がぴったりです)。宮沢賢治の話は未遂に終わるのですが、こっちはそれを実行してしまいます。
これは、カマキリのメス的でもあるなとも思いました。母が女一人子供を育てるのは大変なのですが、これほどまでになると天晴れです。多分この話の続きがあるとしたら、「神がくし《という言葉もぴったりくるような気もします。
猟奇的なのですが。ふくろうが屋根裏に住んでいて一部始終を見ていますが、そのシーンが要所に出てきて、もの知ったように「ほーほー《と鳴いたり首をかしげたりするところにも味があります。
映画での会話のやりとりも、結構受けて笑ってしまいました。映画でちょっといただけなかったのが、37歳の母親と、17歳の娘という設定なのですが、大竹しのぶの37歳という設定はもう少し上げた方がいいのではないかと思いました。これには、「ほっほー《とちょっと複雑で言えませんでしたが。

「魚影の群れ《

クリスティー・ISHI
監督:相米慎二 出演:緒方拳、夏目雅子他(昭和58年作品)
最近、骨髄バンクのCMで、故夏目雅子さんの在りし日の映像が流されています。
夏目さんといえば「鬼龍院花子の生涯《の「なめたら、いかんぜよお!《というセリフが有吊なようですが、私はこの映画見たことありません。夏目さんが出演した「魚影の群れ《は、私が10代の頃に観て大変感動した映画です。最近ビデオで久しぶりに観たのですが、やっぱりすごい映画でした。
監督は天才相米慎二。相米監督といえばビシビシと女優をしごき、独特の長回しの映像を見せてくれる人で、この映画でも夏目さんをしごいたのかどうかは知りませんが、とにかく気迫の映像を見せてくれています。
舞台は下北の漁村。マグロ釣りを仕事とする緒方拳、その娘の夏目雅子、娘婿で新米漁師の佐藤浩市の姿を描いていきます。夏目さんが演じるのは、マグロ釣りという過酷な仕事をする2人の男を支える情念溢れるたくましい女性です。かなり泥臭い役柄だとは思うのですが、清楚な雰囲気の彼女がなぜかピタリと役にはまっており、非常に魅力的です。この作品の次の「瀬戸内少年野球団《では教師役を演じましたが、これが残念ながら遺作となってしまいました。27歳のあまりにも早すぎる死でした。

【 13へ 】